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鳥井守幸のメディア日記

鳥井守幸(とりい・もりゆき)
ジャーナリスト。 本校前校長。
元毎日新聞論説委員、元「サンデー毎日」編集長。


鳥井守幸のメディア日記【6】   (2004/10/26)

「一面から読むようになった15の夏」…
新聞標語はつねに時代とメディア環境を反映している!

10月×日
 15日から始まった「新聞週間」で各紙とも特集ものが並んだ。「新聞週間」はもともと1940年頃、米国で始まったもので、戦後GHQが民主的新聞のあり方を大衆に知らせるのに効果的だと日本の新聞界に実施を勧めたのがきっかけだった。当初は米国と同様、10月1日からだったが、その後15日からとなった。第1回の昭和23年以来、今年で57回目を迎えたことになる。

  米国と同様、毎回、読者から求めた新聞標語の当選作品が発表される。今年は「一面から読むようになった15の夏」、19歳の女子大1年生の作品だった。ちなみに第1回の作品は「あなたは自由を守れ、新聞はあなたを守る」だった。この年の米国の標語当選作品は「あらゆる自由は知る権利から」で、民主主義の根幹は国民の世論→知る権利→報道の自由を示すものとして日米ともに共通している。敗戦によって獲得した表現の自由、報道の自由がいかに尊いものかを強調する時代の反映でもあった。それ以来半世紀以上、新聞標語には当時の時代相、マスメディアをめぐる環境の変化が表現されている。

  今年の「一面から読むようになった15の夏」には、活字ばなれがすすむ若い世代に、新聞情報の大切さを示そうという意図が見える。新聞の一面は、その時代を映す鏡である。事件の裏側、真相を知るには活字メディアの役割が大きい。情報量、一覧性などテレビメディアが持ち得ない特性を新聞が持つのは確かである。



なぜ、ニュースは暗いの?
HAPPYなニュースは世に存在しないのか?


 今年の新聞週間で興味深かったのは、日本新聞協会が11月から新しく「HAPPY NEWS キャンペーン」を展開することを決めたことだ。今年4月以降の新聞から「もっともHAPPY(幸せ)な気持になった記事」を切り抜き「なぜHAPPYになったか」のコメントを募集、審査ののち、日本を幸せにしたニュース(HAPPY NEWS 2004)として来年4月に公表するというものである。

  この企画に興味を持ったのは「なぜ、暗いニューばかりメディアに氾濫するの?」「良いニュースを見出す“目”がメディアに乏しいのではないのか?」という日常的な新聞批判が存在するからである。

  これは、なにも日本に限ったことではない。昔からメディアに投げかけられている問いかけなのである。

  1994年、英国BBCテレビの看板キャスター、マーチン・ルイス氏は米国ロサンゼルスで講演、「なぜ、災害、紛争、犯罪、戦争、失敗といった悪いニュースばかりがとりあげられるのか。良いニュースは軽視され、無視されている」と述べて、欧米のメディアで大論争を巻き起こした。新聞やテレビのニュースが非日常的な出来事を柱として作られている以上、ある程度は宿命的である。日常的で穏やかで、平凡な人間の営みはまずニュースになることはない。それにしても、ネガティブなニュースが中心であり、それがさらに世の中を暗くしている指摘は正しいだろう。

  このルイス発言が契機となって米国BBCラジオは、犯罪、災害、事故など暗いニュースを一切無視、明るいニュースだけを取り上げる異色番組「ナウ・ザ・グツドニュース」(金曜、PM9:00〜10:00)をスタートさせた。人びとの心をなごませ、自信を持たせようという狙いだった。この番組は1回に人間物語10話から構成、「交通事故に遭った幼い女の子を通りがかりに救出した16歳の少女の話」「親の病気などが理由で31年間婚約状態のまま付き合っていた61歳と60歳の新婚カップル」などを紹介している。この番組が現在もつづいているかどうかは定かでないが、日本でもぜひやってほしい試みだ。日本の民放テレビで一時期似たようなコーナーをつくったことがある。



「絶望のジャーナリズム」と「希望のジャーナリズム」

 ルイス発言と似たような声は、米国でも聞かれた。1982年「USAトゥデイ」を創刊した社主・アル・ニューハース氏である。世の中には不正、不道徳、非倫理的な出来事があふれている。これをとりあげる既存のジャーナリズムは、つねに正義顔をして誇大に、刺激的に、断定的に批判し、当事者を徹底的に追い詰める。ニューハース氏はこれを「人びとの希望を奪い取り、気を狂わせ、怒りを引き起こす愚弄的な手法」と批判し、「破滅と悲観のジャーナリズム」とも呼んだ。

  彼は、「USAトゥデイ」創刊に当たって、その「絶望のジャーナリズム」に代って「あたらしい希望のジャーナリズム」を提唱した。それは「よいニュースも悪いニュースも、どちらつかずのニュースも、すべて正確に記録し、読者が何に注意を払い、何を支持すべきか、十分な情報に基づいて判断できるようにする」と述べ、「侮蔑と不和をあおるのではなく、理解と協調を唱導すること」をあげた。いかに不正を追及しても個人の「人間性」「人格への侮辱」を招くような報道への戒めであった。

  その「USAトゥデイ」の発行部数は現在、225万部、「ウォールストリートジャーナル」「ニューヨーク・タイムズ」「ワシントン・ポスト」などを抑え、全米トップである。「希望のジャーナリズム」宣言から22年、紙面づくりが大衆の心をつかみ、成功したのだろうか。



米大統領選の世論調査に新たな難題が持ちあがった。やがて日本も!

10月×日
 注目の米大統領選挙3回目のテレビ討論(米国時間13日)が終わり、米国のマスメディアの多くが社説などで支持候補を表明している。日本のメディアと異なって誰れを支持するか鮮明にするのは米国メディアの伝統である。

  月刊誌「エディター・アンド・パブリッシャー」のまとめを日本の新聞各紙が伝えているが、これによると、ブッシュ支持は「シカゴトリビューン」など44紙。ケリー支持は「ニューヨーク・タイムズ」「ロサンゼルス・タイムズ」「ボストン・グローブ」の有力紙をはじめ58紙とケリー氏がリード。発行部数の総計でもケリー支持がブッシュ氏に大差をつけている。ただし、全米で最多部数の全国紙「USAトゥデイ」は中立を表明、どちらの支持もしていない。

  一方で、近づく大統領選挙を前に多くのメディアがひんぱんに世論調査を行い、ケリー氏ややリードか、両者伯仲の結果を報じているが、新しい問題が持ち上がった。

  米国は世論調査の先進国で70年以上の歴史を持っているが、国土の広さのため、早くから面接調査をやめ、電話による調査を実施してきた。ところが、年を追って固定電話を持たず携帯電話だけの国民がふえ、とくに若い世代の把握が困難になってきているのだ。現在、全米1億6900万人の携帯電話利用者のうち、固定電話を自宅に持っていないのは5〜6%とされるが、2008年には30%にふえるとの推計がある。こうなると、多くの人びとの意思は世論調査に反映されず、調査の信頼性が大きく揺らぐことになる。

  日本のマスメディアでも90年代の終わりから経済性、効率性を理由に、従来の面接法から電話調査法に切り替えているが、やがて、米国と同様の問題をつきつけられることになるだろう。
 

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