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鳥井守幸のメディア日記

鳥井守幸(とりい・もりゆき)
ジャーナリスト。 本校前校長。
元毎日新聞論説委員、元「サンデー毎日」編集長。


鳥井守幸のメディア日記【7】   (2004/11/16)


2つの誤報事件、速報主義のおとし穴だ!!

11月×日 ニュースの誤報や虚報はあってはならないことだが、最近、日本のマスコミで相ついだ。

  ひとつは新潟県中越地震で生き埋めになった乗用車の母子を多くのメディアが「3人生存」とした誤報(10月27日)。もうひとつはイラク日本人人質事件で共同通信が「香田証生さんの遺体発見」と誤った断定記事を配信した誤報(10月30日)だ。

  共通しているのは、結果的に間違った情報源の未確認情報を100パーセント信頼してしまったことだ。「母子3人生存」の場合「レスキュー隊の電磁波探査機に3人の脈拍や心音が確認された」「車から女性の声が聞こえた」「2人を搬送し、もう1人も生きているようだ」の情報が飛び込んできたこと。「イラク人質事件」の場合「米軍がアジア系男性の遺体を発見、頭髪の特徴が似ている」との情報が日本政府に入り、それを香田さんと断定してしまったことだ。(のちに本当の香田さんの遺体が発見される)

  どちらも、複数情報でなく、詳細に確認されたわけではない。共通しているのは、メデイアが直接、現場で確認することが不可能だったことだ。「イラク人質事件」の場合、米兵が病院の遺体収容所で2体のうち1体をアジア人=香田さんと勝手に思い込んだらしいが、結果的に50代のアラブ人だった。

  この事件、共同通信と一部夕刊誌が断定記事を流し号外も出たが、他のメディアは「香田さんか」と疑問符をつけて救われた。

  「母子3人生存」は、国民すべてが何とか生きていてほしいとの希望を抱き、それに応える情報に飛びついたこと、「イラク人質事件」は悲観的観測の中で、それらしい情報がなだれのようにふくらんだケースだ。

  「イラク人質事件」誤報で、共同通信は11月8日、編集局長、ニュースセンター長、政治部長の更迭処分を発表した。加盟255社の被害責任だった。

  ニュース競争は激しくなるばかりだ。情報を詳細に確認する時間もない場合、断片情報をもとについ断定的に走ってしまう恐ろしさを見せつけられた点、マスコミにとって教訓的であった。突っ走りたいのをぐっと我慢し、情報を精査する余裕が必要なのだ。刻々と事態が変化する中での速報主義にはつねに危うさがつきまとう。



視聴率にかわる視聴質、その方法論を確立すべきだ!!

11月×日 日本マス・コミュニケーション学会秋季発表会が開かれ、「視聴率と視聴質」を考えるワークショップに参加した。昨年秋、日本テレビ社員による視聴率買収工作事件が発覚して以来、テレビ界での視聴率競争の問題が議論されている中、このテーマが注目された。武蔵大学・小玉美意子教授が視聴率調査の現状と問題点を報告、これをもとに議論された。

  問題のひとつはサンプル数からくる誤差の大きさだ。現在、東京、大阪は600世帯、他の25地区は200世帯、その他の地区合わせて合計6250世帯。それだけで全国全世帯の視聴率がはじき出される。統計上の誤差は視聴率10%でプラス・マイナス2.4%、20%で同じく3.3%。私が出演しているテレビ番組でもそうだが、他の番組との2、3%の違いで一喜一憂しているのが現状だ。誤差を1.0%にするには1地区についてサンプル数3600が必要といわれている。コストパフォーマンスがカベというが、実現はそう難しいことではなかろう。

  もうひとつは、視聴率に代わる視聴質調査の問題だ。視聴率至上主義による番組編成の悪影響が指摘される中で、各局でも視聴率にかわる視聴質への転換が議論されるようになって久しい。しかし、現状は性別、世代別調査が加わえられたくらいで、一向に進んでいない。番組の文化的、社会的、倫理的、実用的価値をどんな尺度ではかるか、方法論の難しさはある。不定期にアンケート調査したり、番組審議会の意見を求めているくらいなのが現状である。市民参加型の番組評価機関をつくるなどが必要だろう。「現在の視聴率評価以外に番組の反応を知る手だてはない」と視聴率至上主義がまかり通るのは決して健全なことではない。



「報道の自由」のワーストランク上位に北朝鮮、中国。
日本は?  これはどうしたことか。

11月×日 パリに本部を置く非政府組織「国境なき記者団」が「世界の報道の自由度ランキング」という興味深い調査結果を発表した。独裁・統制国家として知られる北朝鮮は3年連続で最下位の167位。ごもっともだ。私は1971年、92年と2度、取材・調査に訪れたが、政府や朝鮮労働党の公式発表・見解以外、何も聞くことができない。行動の自由はなく、取材は与えられたルートのみである。

  許可された市民の家を訪ねても公式見解がくり返され、うんざりしたことを思い出す。ピョンヤンには中国などわずかの外国人記者も駐在するが、独自のニュースなどほとんど聞いたことがない。情報閉鎖国であるのは今も相変わらずのようだ。

  中国もそのわずか5つランク上の162位。中国の場合、改革開放政策以来約30年、経済の上では市場主義開放経済で成長率も誇っているが、こと政治や言論となると依然中国共産党指導による抑圧政策が踏襲されているのが現状だ。最近でも、江沢民氏の中央軍事委首席辞任をスクープしたニューヨーク・タイムズの北京支局中国人助手が国家機密漏えい罪で逮捕され、インターネットの反日サイトが突然閉鎖された。国家指導者を批判した出版物の発行禁止、著者、発行責任者の解雇処分も続発している。

  その反面、携帯メールを使っての政治批判の小話など活発にやりとりされているそうだ。巨大な国らしく、いま中国全土で発行されている新聞は2000余、雑誌は8000余、政府の規制がどこまで通じるのか、言論封じ込めも難作業らしい。

  おや!と思ったのは「言論の自由度ランキング」で日本は42位と意外にも低いこと。日本の言論はいまや野放図なほど自由と思えるのに不思議なことだ。「国境なき記者団」は日本のメディアが記者クラブ制度を強固に守り「外国メディアの情報アクセスを制限している」と低ランクにしたようだ。最近、官邸クラブ、外務省クラブでは外国人記者にも開放しているのに、これはちょっと評価がカラすぎるのじゃないかなあ。ちなみに1位はデンマーク、米国は22位である。詳細な調査細目を知りたい。



深谷元大臣の講演に若者たちは感動した。

11月×日 学生主催によるわが「ジャナ専」の学園祭「ジャナ祭」が行われ、メインイベントとして元郵政大臣、深谷隆司氏(東洋大学大学院教授)による講演、私も参加しての討論会を開催した。実は私が毎日新聞社会部・都庁記者クラブキャップだった昭和40年代、深谷氏は若き都議会議員として大活躍、私の出身大学の後輩でもある。久しぶりの再会だった。深谷氏は講演で中国問題を中心に熱弁をふるった。早大雄弁会出身らしい説得力ある弁舌、その勉強ぶり、中国の経済成長の秘密と問題点から日本の政治の行方まで、参加した学生たちには大きな刺激になったことだろう。中国の大学の名誉教授もやり、地元では深谷政経塾を開講、その活力には改めて敬服させられた。感謝申し上げたい。
 

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